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最高裁判所第一小法廷 昭和34年(オ)975号 判決 1963年2月21日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人寺口健造の上告理由第一点について、

所論は要するに、上告人が原審において訴外堀江徳蔵は本件賃貸借契約を本件土地の地主または借地権者として締結したものである旨主張したにもかかわらず、原審は右主張事実について審理判断せず、これを容認しなかつた点に違法があるというに帰する。

しかし、原判決を詳細に検討すれば、原判決の引用する一審判決はその事実摘示欄において原告(控訴人・上告人)の主張として「仮に被告(被控訴人・被上告人)が徳蔵と賃貸借契約を結んだとしても、それは徳蔵を借地権者又は地主本人として契約したもので、原告の代理人としてしたものではないから、被告の表見代理人の主張は当らない」と述べた旨掲記し、右主張に対し原判決はその理由欄においてその挙示する証拠関係、事実関係から「右徳蔵が控訴人から本件土地の処分を委され代理権を付与されていたことはこれを認めることはできないけれども、被控訴人は控訴人の叔父でその代理人と称する徳蔵との間に昭和二五年一月本件土地につきその記載の如き賃貸借契約を約定し、右契約は徳蔵の権限踰越行為として表見代理に該当する」旨判示認定しているのであるから、原判決には所論の違法は存せず、所論は原判決を正解しないかまたは原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採るを得ない。

同第二点について、

原判決の所論事実に関する判示認定は、その挙示する証拠関係、事実関係からこれを肯認し得るところである。所論は縷々主張するけれども、結局原判決の判示と相容れない事実を前提として、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、原判決に所論の違法は存せず、論旨は採るを得ない。

同第三点について、

本件記録に徴するに、控訴代理人は原審の昭和三一年四月三〇日の口頭弁論期日において控訴状に基いて控訴の趣旨を陳述し、一審判決事実摘示のとおり一審における口頭弁論の結果を陳述し、なお右控訴状の事実および理由の項を陳述したこと、同じく昭和三二年五月一〇日の口頭弁論期日において被控訴代理人は、同年三月三〇日附反訴状と題する書面に基いて反訴の趣旨を陳述し、これに対し控訴代理人は右反訴に同意しない旨を述べた後、同年五月一〇日附控訴状訂正申立書に基いて控訴の趣旨並びに事実および理由を陳述し、被控訴代理人は右訂正に異議はない旨陳述したことが明らかである。このような訴訟経過を辿つている本件にあつては、たとえ右反訴と右訂正後の本訴とが同一訴訟にあたるとしても、前述のように反訴が右訂正後の本訴より以前に提起されている以上、右反訴は適法に原審に係属しているものであることはいうをまたない。そして右反訴の提起について控訴代理人が同意しなかつたことは前述のとおりであるが、一審において原告(控訴人・上告人)の本件土地明渡しの請求に対し、被告(被控訴人・被上告人)は同土地について賃借権を有する旨主張し、原告はこれを争つたところ、一審はこれを容認して原告の請求を排斥したものであること、被控訴人(被上告人)は原審において反訴として右賃借権の存在を主張し、その確認の訴を提起するに至つたものであることは記録上明らかであるから、このような本件における反訴提起については、控訴人(上告人)をして一審を失う不利益を与えるものとは解されず、従つて、右反訴提起については同人の同意を要しないものと解するのが相当である。されば、以上と結局において同旨に出た原審の判断は正当としてこれを肯認し得る。論旨は独自の見解に立つて原判決を非難するに帰するものであつて採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤朔郎)

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